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Chronicle
10.15.2026

ロジスティクス全国大会2026に登壇:物流は経営アジェンダになった。コスト削減から企業価値の創造へ

ロジスティクス全国大会2026に登壇:物流は経営アジェンダになった。コスト削減から企業価値の創造へ
この記事のポイント

ロジスティクスはROIC(投下資本利益率)を上げるだけでなく、WACC(加重平均資本コスト)を下げる効果を持ちます。

ROIC経営の使い方を誤ると、物流費率だけの目標、単年の全社ROICでの投資判断、在庫の削りすぎ、取引先への押し付けによって、必要な投資が止まり現場が縮小均衡に向かいます。

Nexgen Viewとして、改正物流効率化法を契機に物流が経営アジェンダとなり、2023年の東証の要請と結びついたいま、コスト削減だけでは他社との差が開くと考えます。物流には、企業価値の創造に貢献する方針への転換が求められています。

目次

  1. イベント概要
  2. 講演内容:ロジスティクスはROICを上げ、WACCを下げる
  3. Nexgen View:物流は経営アジェンダになった
  4. おわりに

1. イベント概要

2026年10月6日、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)主催のロジスティクス全国大会2026で、当社代表取締役・物流AIアーキテクト 大野有生が登壇しました。会場は東京・両国のKFC Hall & Roomsで、オンラインでも配信されました。参加対象は経営者・経営幹部と、ロジスティクス部門および調達・生産・販売部門の管理者です。

当社が登壇したのは、セッション2のテーマ講演「企業価値向上につなげるロジスティクスイノベーション」です。JILSのロジスティクスイノベーション推進特別委員会がまとめた冊子『経営×変革』をもとにした講演群で、同委員会の委員長である東京大学大学院の西成活裕教授のオープニングメッセージに続き、大野、花王株式会社 ロジスティクス部門 戦略企画部長 田坂 晃一 氏、株式会社シグマクシス マネージングディレクター 池田 祐一郎 氏が登壇しました。

大野の演題は「変化する経営環境とロジスティクスの新たな役割」です。大野は同冊子の第1章「経営戦略の一翼を担うロジスティクス」を執筆しており、本講演はその第1章にあたります。20分の講演で持ち帰っていただきたい点として、次の2つを掲げました。

  1. サプライチェーン・ロジスティクスが、財務価値と非財務価値の向上に高い効果を持つこと
  2. ROICとは何か、WACCとは何か、なぜ経営者にとって重要か

本稿では講演の要点をご報告したうえで、当社がいま何を考えているのかを、Nexgen Viewとしてお伝えします。

2. 講演内容:ロジスティクスはROICを上げ、WACCを下げる

2-1. 企業価値を、両側から押し上げる

企業価値は、ROICとWACCの差で決まります。事業に投じた資本でどれだけ稼いだか(ROIC)が、その資本を集めるためのコスト(WACC)を上回ってはじめて、企業価値が生まれます。

講演では、ロジスティクスがこの差を両側から広げられる稀有な機能であることを示しました。

ロジスティクスが企業価値に効く経路

1

ROICを上げる(資本効率性への貢献)

物流費の圧縮と欠品の抑制で利益率を上げ、在庫日数の短縮と拠点の集約で回転率を上げる。需要予測の精度を上げれば、在庫減と欠品減を同時に実現できる。

2

WACCを下げる(非財務価値の財務価値への転換)

BCPと地政学リスクへの備えで株主資本コストのリスクプレミアムを下げる。スコープ3や人権デューデリジェンスの開示を充実させてESG格付けを上げ、資金調達コストを下げる。供給網を分散させ、業績のボラティリティを下げる。

2-2. ROIC経営で陥りやすい4つの考え方

ROICは、使い方を誤ると逆効果になります。必要な投資が止まり、現場が縮小均衡に向かうからです。講演では、物流部門が陥りやすい4つの考え方と、その正しい捉え方を示しました。

陥りやすい考え方と正しい捉え方

1

物流費率だけを目標にする

「売上高物流費を○%以下に」という単年度PLの目標にとどめず、在庫日数、拠点数、設備稼働率まで含めてROICツリーに接続する。

2

単年の全社ROICで投資を評価する

投資直後にROICが下がることを理由に自動化投資を却下しない。プロジェクトのROICとWACCの差、償却後の分母の縮小を含め、複数年で評価する。

3

在庫を減らしすぎて欠品を招く

安全在庫を一律に削って売上を落とさない。サービスレベルを変数として扱い、カテゴリー別に在庫と欠品のバランスを設計する。

4

自社の投下資本だけを見る

自社のROICのために取引先へ在庫や支払条件を押し付けない。サプライヤーから店頭までの資金滞留全体を、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の視座で俯瞰する。

あわせて、現場の制約がROICを下げる流れも示しました。顧客の要求リードタイムが短く、納品時の付帯作業が多いと、配送拠点は分散し、安全在庫は積み増されます。棚卸資産の回転率が下がり、拠点の固定費と多頻度小口配送の変動費が増え、結果としてROICが下がります。サービスレベルの設計は、現場だけで決めてよい話ではありません。

2-3. 三重苦の時代に、重要性が上がる指標

講演の後半では、2026〜2030年の近未来に向けて、PESTLEの各観点で起きている構造変化と、それによって重要性が上がる経営指標を対応づけました。

持続的な高金利、地政学の分断、労働力の構造的な不足という三重苦のもとでは、運転資本(CCC)とリスクプレミアム(WACC)の重要性が突出して上がります。キャッシュ本位の経営と、リスク・マネジメントに寄与する戦略・戦術が問われます。そのなかで唯一の攻めの構造変化がAI・自動化であり、これを使って三重苦の解決を図る検討が必要です。

3. Nexgen View:物流は経営アジェンダになった

今年の大会の統一テーマは「経営とともに進化するロジスティクス」でした。物流が、いよいよ経営アジェンダとなり始めています。当社はこの変化を、次のように捉えています。

3-1. 契機は、改正物流効率化法

間違いなく、契機は改正物流効率化法です。物流の責任者が、法律によって経営陣の一員に置かれたのです。

これに伴い、「物流には経営の視座が必要だ」と叫ばれ続けてきました。ただ、この掛け声だけでは、経営者が物流を自分の議題として扱うには足りません。経営者がふだん使っている物差しと、物流の成果をつなぐ必要があるからです。

3-2. 東証の要請と結びついた

経営と物流を紐づけたのが、2023年に東京証券取引所が上場企業に要請した「資本コストや株価を意識した経営」です。東証プライム市場の約半数がPBR1倍割れであることを背景に、資本コストを上回る資本収益性をあげているかを分析・開示し、改善を進めるよう求めました。

物流効率化法が物流の責任者を経営陣に置き、東証の要請が経営者にROICとWACCで説明する責任を負わせた。CLOは、経営者が投資家に説明している数字そのものを動かせる立場にいるのです。

3-3. コスト削減だけでは、差が開く

だからこそ、従前の「コスト削減」のみを施策としていては、他企業との差が開いてしまいかねない事態になりました。

コスト削減は、ROICの利益率という一つの側面にしか効きません。しかも、運賃と人件費が上がり続ける労働力不足のもとでは、削る余地そのものが細っています。一方で、物流を企業価値の言葉で語り始めた企業は、在庫と拠点の再設計で資本効率を上げ、供給網の強靭化と開示の充実で資本コストを下げ、その成果を経営の数字として説明できます。同じ物流費を使っていても、資本市場からの評価には差がつきます。

この差は、講演で示した「陥りやすい考え方」にも表れます。物流費率だけを目標にする組織は、自動化投資を単年のROICで却下し、在庫を一律に削って欠品を招き、取引先に負担を押し付けます。コスト削減に閉じた物流は、縮小均衡に向かいやすいのです。

Nexgen Japan 代表取締役 大野有生

ロジスティクスは「コスト削減装置」ではなく、「ROIC−WACCスプレッドを両側から拡大する装置」である

改正物流効率化法を契機として、物流には、経営の企業価値創造に貢献する方針への転換が求められています。CLOの最初の仕事は、物流費率ではなくROICツリーと資本コストの言葉で、物流の打ち手を経営に示すことだと、当社は考えます。

4. おわりに

物流効率化法によるCLOの選任義務化は、ゴールではなくスタートラインです。法律が物流を経営の場に引き上げ、東証の要請が経営の物差しを与えました。あとは、物流の側がその物差しで語れるかどうかです。Nexgen Japanは、物流を企業価値の言葉で語れる組織づくりを、研究・発信・実装の3方向から支援してまいります。

最後に、本大会を企画・運営されたロジスティクス強調月間2026推進委員会とJILSの皆さま、オープニングメッセージをお寄せいただいた西成活裕教授、同じセッションにご登壇された田坂晃一氏、池田祐一郎氏、ならびにご来場・ご視聴いただいた皆さまに、御礼申し上げます。

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実務者からよく受ける質問

物流が経営アジェンダになったきっかけは何ですか

改正物流効率化法です。2026年4月から、一定規模以上の荷主企業に、役員クラスのCLO(物流統括管理者)の選任と、中長期計画の作成、定期報告が義務づけられました。物流の責任者が経営陣に置かれ、物流に経営の視座が求められるようになりました。さらに、2023年3月に東京証券取引所が上場企業に要請した「資本コストや株価を意識した経営」と結びつき、物流は資本効率と企業価値の言葉で語られる対象になりました。

ロジスティクスは、企業価値にどう効くのですか

ROIC(投下資本利益率)を上げ、WACC(加重平均資本コスト)を下げます。物流費の圧縮で利益率を、在庫と拠点の圧縮で回転率を上げればROICが上がります。BCPや地政学リスクへの備え、スコープ3や人権デューデリジェンスの開示を充実させれば、リスクプレミアムが下がりESG格付けが上がるため、WACCが下がります。企業価値を生むROICとWACCの差を両側から広げられる、稀有な機能です。

物流部門がコスト削減だけを目標にすると、何が問題ですか

必要な投資が止まり、現場が縮小均衡に向かうおそれがあります。売上高物流費率だけを目標にすると、在庫日数や拠点数が企業価値にどう効くかが見えません。単年の全社ROICで評価すると、自動化投資が投資直後の数字を理由に却下されます。在庫を一律に削れば欠品で売上を落とし、取引先に在庫を押し付ければサプライチェーン全体の資金滞留が増えます。物流を企業価値への貢献で測る企業との差が開きます。

CLOは、物流を経営にどう説明すればよいですか

物流費率ではなく、ROICツリーと資本コストの言葉で説明します。拠点の集約は投下資本の圧縮として、需要予測の精度向上は在庫減と欠品減の同時実現として、BCPや開示の充実はリスクプレミアムの低下として示します。投資は単年ではなく、プロジェクトのROICとWACCの差を複数年で評価します。

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参考文献・主要情報源

(2件)
  1. 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「経営×変革」(2026年3月。当社代表が第1章を執筆)
  2. 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)