この記事のポイント物流はもはやコストセンターではなく、ROIC(資本効率)とWACC(資本コスト)の双方に効く、社内で唯一の機能 である。
サプライチェーンの非財務価値化は全社一斉に進める必要はなく、パレート分析で経営に効く重要領域に絞り、まず関係の良い1社とCO2を測る「データの型」づくりが、CLOの現実的な第一歩。
Nexgen独自の視点として、経営者へのSCMの「翻訳」、オペレーションAIに対して未開拓の「経営AI」という空白、調達・販売・法務と部門を越える会議体、という3点を考察。
目次
- イベント概要
- 当日のサマリー: 物流を「非財務価値」に変えるには
- Nexgen View: 経営とサプライチェーンをつなぐ3つの視点
- おわりに: 2026年は、日本が変わる最大のチャンス
- 参考文献・主要情報源
1. イベント概要
2026年7月8日、アセンド株式会社主催のオンラインセミナー「徹底解説!CLOが主導する経営改革 〜短期集中2DAYS講座〜」第1回に、当社CEO・物流AIアーキテクト 大野有生が出演しました。
本セミナーは、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が刊行した同冊子『経営×変革』を準拠テキストに、2026年4月に選任義務化が始まったCLO(物流統括管理者)を経営の視点から掘り下げる全2回の連続講座です。当社代表の大野は、本セミナーの準拠テキストJILS『経営×変革』の第1章を執筆しています。
冒頭のご挨拶には同冊子の議論を牽引された東京大学大学院の西成活裕教授、モデレータにはアセンド株式会社代表取締役の日下瑞貴氏が立たれました。第2回にはトリドールホールディングスの梶野透氏、花王の田坂晃一氏が出演され、理論から実例までを2日間で貫く構成となりました。
本稿では、当日お話しした内容の要点をご報告したうえで、セミナーを終えたいまNexgen Japanが何を考えているのかを、Nexgen Viewとして少し踏み込んで書いてみたいと思います。
2. 当日のサマリー: 物流を「非財務価値」に変えるには
第1回のテーマは「物流をコストセンターから『非財務価値』に変えるためには何が必要か」。Nexgen Japanからは、大きく3つのことをお伝えしました。
当日お伝えした3つの要点
物流は「コスト」から「経営マター」へ
物流はもはや生産を支える裏方のコストではなく、企業価値を左右する経営マターに変わった。人口減少による供給制約とEC拡大による需要増、2017年の宅配クライシスを転換点として、物流は売上と利益に直結する機能となり、国の施策でもDX・脱炭素・経済安全保障を軸としたサプライチェーン強靭化が重点に据えられている。
ROICとWACCの双方に効く、社内で唯一の機能
原価低減・在庫圧縮でROIC(資本効率)を上げると同時に、BCP・人権デューデリジェンス・スコープ3開示でESG評価を高め、調達金利(WACC)まで下げられるのはサプライチェーンだけ。先行事例のシュナイダーエレクトリックは上流1,000社とCO2排出を56%削減、人権DD準拠率98%、ガートナー「Global Supply Chain Top 25」で4年連続世界1位。同ランキングは配点の20%がESGで、非財務価値はすでに評価軸に組み込まれている。
それでも「全部はやらなくていい」
全サプライヤーと一気呵成に進めれば数十億円規模のデータ整備が必要になり、着手前に止まる。パレート分析で経営に効く重要領域に絞り、関係の良いパートナー1社とまずCO2を一緒に測る。そこでできた「データの型」を上位領域から順に横展開することが、CLOの現実的な第一歩になる。
3. Nexgen View: 経営とサプライチェーンをつなぐ3つの視点
ここからは、当日の議論を当社のこれまでの発信と接続し、経営・AI・実務の3つの観点から、追加の考察を加えます。
3-1. 経営の視点: 経営者にSCMを「翻訳」するということ
セミナーで率直にお伝えしたことのひとつに、「経営者にとって、SCM単体はそのままでは経営課題ではない」という指摘があります。出演を終えて、あらためてこの論点が本セミナーの核心だったと感じています。
経営者が普段見ているのは、マクロ環境と有事のレジリエンス、資本市場・規制からの要請、そして競争地位と企業価値という3つのレンズです。SCMはこのレンズに結びついたときに初めて経営の議題になり、それ以外の時期は視界から消えている。これが実態です。だからこそ、CLOや物流部門に求められる最初の仕事は、高度な最適化アルゴリズムではなく「翻訳」です。「拠点にロボットを導入します、費用対効果はいくらです」という説明を、「構造的な人手不足への備えであり、サステナビリティレポートに反映され、その先の資金調達に効く投資です」と経営の言語に置き換える。
やっていること自体は同じでも、事業のゴールから逆算し、経営者が見ている景色に沿って語り直すだけで、経営陣への届き方は一変します。
3-2. AIの視点: オペレーションAIと経営AI、まだ埋まっていない空白
もうひとつ、セミナー資料の最後に置いた論点を、ここで少し展開させてください。「AI×SCM」と呼ばれるソリューションの大半は、需要予測・在庫最適化・配車計画といった現場の定常業務を効率化する「オペレーションAI」です。この領域はすでに競合がひしめき、パーセント単位の改善を競う成熟市場になりつつあります。
一方で、経営者が本当に欲しいのは、CEO・CFO・取締役会の意思決定そのものを支える「経営AI」だと私たちは考えています。具体的には、SCM管制塔、M&Aや有事のシナリオ分析、クリティカル在庫の経営判断といった領域です。そしてこの領域のソリューションは、世界的に見てもまだほぼ未整備です。インパクトはパーセント単位の効率改善ではなく、中期経営計画の達成、すなわち企業価値そのものに及びます。
CLO選任義務化で「サプライチェーンを経営の言語で語れる人材」への需要が立ち上がったいま、この空白こそが、Nexgen Japanがリサーチとコンサルティング、そしてプロダクトの3方向から取り組んでいくテーマです。
3-3. 実務の視点: 調達・販売・法務と、部門を越える会議体を持つ
最後に、明日からの実務の起点をひとつだけ挙げるなら、調達・販売・法務の3部門と会議体を持つことです。物流の問題は物流だけでは解けません。調達はサプライヤーとの協働の入り口に、販売は顧客・営業との情報連携に、法務は規制対応をリスクにもチャンスにも変える接点になります。
3部門すべてと一度に始める必要はなく、どれか1つからでも部門をまたぐ横のつながりができると、経営に対する「言葉のパワー」が変わります。
4. おわりに: 2026年は、日本が変わる最大のチャンス
セミナーのクロージングで、Nexgen Japanからは次のメッセージをお伝えしました。
クロージング・メッセージ
10個の予算が決まったプロジェクトの中に、今日の要素を1個ずつでも盛り込んでみる。それができるのは2026年の今しかない。日本が変わる最大のチャンスだと思っています。
改正物流効率化法とCLO選任義務化は、ゴールではなくスタートラインです。法律は手段であり、CLOの責務は企業価値を上げることに尽きる。この認識を、荷主・物流事業者・行政の垣根を越えて広げていくために、Nexgen Japanは今後も研究・発信・実装を続けてまいります。
最後に、本セミナーを企画・主催されたアセンド株式会社、ならびに貴重なお話をくださった西成教授、梶野氏、田坂氏、日下氏に、この場を借りて御礼申し上げます。
5. 参考文献・主要情報源
- アセンド株式会社「徹底解説!CLOが主導する経営改革 〜短期集中2DAYS講座〜」(開催概要/プレスリリース)
- 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「経営×変革」(本セミナーの準拠テキスト。弊社が第1章を執筆)
- サプライチェーンマネジメント・レビュー「Schneider Electric again tops Gartner's Top 25 Supply Chain rankings」(シュナイダーエレクトリックがガートナー「Global Supply Chain Top 25」で首位を継続。ESGを含む評価軸)
開催概要 ― アセンド株式会社
徹底解説!CLOが主導する経営改革 〜短期集中2DAYS講座〜
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