記事一覧に戻る
Chronicle
04.23.2026 ( 更新)

JILS『経営×変革』ホワイトペーパー第1章を執筆 — 『有事が平時』の時代のCLO像

JILS『経営×変革』ホワイトペーパー第1章を執筆 — 『有事が平時』の時代のCLO像
この記事のポイント

JILS「経営×変革」ホワイトペーパー(2026年3月刊行)に委員として参画し、第1章を執筆

物流を「コストセンター」から「非財務価値創造の中核エンジン」へ再定義

「有事が平時」となった時代に、CLOが担うべき3つの責務を提示

JILSCLOホワイトペーパーロジスティクス経営サプライチェーン

目次

  1. ホワイトペーパー「経営×変革」の意義
  2. 第1章で論じたこと
  3. 後記 — 「有事が平時」の時代のCLO像

公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「ロジスティクスイノベーション推進特別委員会」が、ホワイトペーパー 『経営×変革 — ロジスティクスによるイノベーションを目指すリーダーの方々へ』 を2026年3月に刊行しました。

Nexgen JapanのCEO・物流AIアーキテクトである大野有生が、同委員会に3年間にわたり委員として参画し、第1章「経営戦略の一翼を担うロジスティクス」 を担当しました。本記事では、ホワイトペーパー全体の意義、第1章で展開した論考、そして後記として「有事が平時となった時代に、CLOは何をするべきか」を記します。

1. ホワイトペーパー「経営×変革」の意義

委員会の概要

委員会は東京大学の西成活裕教授を委員長とし、メーカー・小売・物流事業者・コンサルティング・金融など多様な業界の委員が3年間にわたり議論を重ねてきました。狙いは、物流をコストセンターから価値創造センターへと進化させる指針CLOを筆頭とする経営層 に届けることにあります。

核心メッセージ

ホワイトペーパー巻頭言は、次のメッセージを掲げています。

物流危機をチャンスに変えるために、ロジスティクスを起点にして新たな価値を創造できるか、これがこの冊子で私たちが最も伝えたいメッセージです。

つまり、新物流効率化法の施行という「外圧」を、経営変革の起爆剤として活用する ための処方箋が冊子全体の主題となっています。

章構成

ホワイトペーパーは4章+提言で構成されています。

テーマ
第1章経営戦略の一翼を担うロジスティクス(環境激動とCLOの役割)
第2章ロジスティクス×経営の全体像(ROIC・CCC・サービスレベル)
第3章事例から学ぶ — 国内外6事例
第4章「経営者としてのCLO」及び「CLO組織」に向けた指針
提言経営×変革のためにすべきこと

第1章は、続く第2〜4章への問題意識を立ち上げる 導入の章 です。

2. 第1章で論じたこと

第1章は次の3節で構成されています。

コストセンターから「非財務価値」創造の源泉へ

物流は日本のGDPの約5%を占める社会インフラですが、企業内では長年「可能な限り安価にモノを運ぶ」コストセンターとして扱われてきました。この構図はEコマース普及(2010年代以降)で崩れ、物流は マーケティングからアフターサービスまでバリューチェーン全体を貫く「ロジスティクス」 へと再定義されました。

さらに現在、ロジスティクスは ESG等の非財務価値を直接的に向上させる中核エンジン となっています。物流を「コスト」ではなく「価値創造の源泉」として捉え直すこと、これが本章の出発点です。

環境激動と法改正 — CLOが主導する経営の自己変革

2026年に施行される改正物流効率化法により、特定事業者には CLO(Chief Logistics Officer / 物流統括管理者) の選任が義務化されます。CLOには単なる法令遵守の担当者ではなく、変革を駆動する組織の設計者 としての役割が課されています。

この背景には、不可逆的なマクロ環境変化があります。

  • 国内:2024年問題による輸送能力不足(2030年に約34%不足の試算)、エネルギー・為替高、異常気象、脱炭素対応への投資圧力 — コスト・人材・気候の三重苦
  • 海外:紅海危機、パナマ運河の干ばつ、港湾ストライキ、関税発動、ホルムズ海峡封鎖リスク — 米国サプライチェーンプロフェッショナル認定協会が 「今日真実だったことが明日には通用しない」 と認める世界

ROICと非財務価値の統合管理

ロジスティクスは、財務指標(ROIC)と非財務価値(環境・社会・ガバナンス)を同時に動かせる稀有な経営機能 です。第1章ではこの両輪を提示するに留め、財務的メカニズムの詳細(CCC・ROICの数値モデル)は第2章へ、事例展開は第3章へ、CLO組織論は第4章へと引き継いでいます。

3. 後記 — 「有事が平時」の時代のCLO像

第1章でも触れた「先読み不可能な世界」について、刊行後の現在から改めて補足します。

「有事が平時」となった現在進行形の事象

直近数年だけを振り返っても、グローバルサプライチェーンを揺るがす事象は途切れることがありません。

  • スエズ運河・パナマ運河:干ばつ等の天候要因による通航容量低下
  • 紅海危機:フーシ派攻撃に伴う商船迂回(喜望峰ルートへ)
  • ホルムズ海峡危機:イラン情勢を端緒とする中東リスクの顕在化
  • トランプ関税:地経学的分断と関税戦の常態化
  • 異常気象:豪雨・台風・山火事による幹線寸断
  • 港湾ストライキ:米国東岸・欧州主要港の機能停止
  • 橋梁崩落: 米ボルティモアの橋崩落 等、社会インフラ自体の脆弱化

これらはもはや 「想定外の緊急事態」 ではなく 日常 です。「有事が平時」 と表現せざるを得ない世界に、私たちは立っています。

このような世界において、CLOに求められるべき役割は次の3点に整理できます。

① グローバルサプライチェーン全体の「管制塔」となる

CLOは特定の機能(調達・製造・物流・販売)を所管するのではなく、サプライチェーン全体を俯瞰する管制塔 としての役割を担うべきです。各部門・各拠点・各サプライヤー・各物流事業者から入る情報を統合し、リアルタイムに状況を把握する司令塔機能です。これは第4章で示された 「CEO直下のレポートラインで、各部門に横串を刺す権限」 と通底する考え方です。

② 世界動向を注視し、レジリエントな調達先変更を進言する

管制塔としての視座を持つCLOは、地政学・気候・労働情勢の変化を常時モニタリングし、「いつ、どこから、どう調達するか」を動的に組み替える よう経営に進言する責務を負います。シングルソース調達は平時には安価でも、リスク顕在化時の機会損失と復旧コストを考慮すれば必ずしも合理的ではありません。複数調達先の確保とスイッチング能力の整備 こそ、平時から準備すべき投資です。

③ リードタイム変動に応じて在庫基準を都度見直す体制を組む

「有事が平時」の世界では、リードタイム自体が大きく変動します。固定の安全在庫水準を持ち続けることは、過剰在庫か欠品かのいずれかを招きます。CLOには、リードタイムの実績分布をモニタリングし、安全在庫基準を動的に見直す体制 の構築が求められます。需給計画システムと意思決定権限の両面から、変動を前提に動ける構造 を作ることが鍵となります。


ホワイトペーパー全文は JILS公式ページ から閲覧でき、PDF も無料で公開されています。第1章の主張に共感いただけた方は、ぜひ通読いただきたく存じます。

Nexgen Japanは、本ホワイトペーパーの主張を実装に落とし込むための CLO支援・サプライチェーン変革支援 を提供しています。「経営×変革」を本気で進めたいリーダーの方々のご相談を歓迎いたします。

実務者からよく受ける質問

JILSの『経営×変革』は、どんなホワイトペーパーですか

物流をコストセンターから価値創造センターへ変えるための指針を、CLOをはじめとする経営層に向けてまとめた冊子です。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)のロジスティクスイノベーション推進特別委員会が、2026年3月に刊行しました。委員長は東京大学の西成活裕教授です。Nexgen Japanの大野有生が委員として3年間参加し、第1章「経営戦略の一翼を担うロジスティクス」を執筆しました。

有事が平時となった時代に、CLOは何をすべきですか

サプライチェーン全体の管制塔になり、調達先の切り替えを経営に提案し、在庫基準をこまめに見直す体制を作ることです。紅海危機、ホルムズ海峡危機、関税、異常気象、港湾ストライキは、もう想定外ではなく日常です。調達先を1社に絞ると平時は安くても、有事の機会損失や復旧コストまで考えると合理的とは限りません。安全在庫を固定すると過剰在庫か欠品を招くので、リードタイムの実績に合わせて基準を更新します。

物流は、なぜコストではなく経営戦略の対象になったのですか

物流がバリューチェーン全体を支えるロジスティクスへと役割を広げ、ESGなどの非財務価値を直接高める中心的な機能になったからです。日本のGDPの約5%を占める物流は、長いあいだ安く運ぶためのコストとして扱われてきました。Eコマースの普及で、マーケティングからアフターサービスまでを支える機能に変わりました。さらに2026年施行の改正物流効率化法で、特定事業者にはCLOの選任が義務づけられました。