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08.10.2026

日越サプライチェーン接続調査 2026 ― リープフロッグする1億人市場とコールドチェーン南北接続の設計図

大野 有生|CEO・物流AIアーキテクト
日越サプライチェーン接続調査 2026 ― リープフロッグする1億人市場とコールドチェーン南北接続の設計図
この記事のポイント

ベトナムは「工場」から「市場」へ拡張している。 チャイナプラスワンの主語は中国企業自身に変わり、現地の日系経営者は、消費市場を狙う第二の進出フェーズが始まったと口を揃える。

コールドチェーンは「南部にハード、北部に空白」。 冷蔵容量の87%が南部に集中し、南北2,000kmを結ぶ低温の定期輸送は成立していない。その空白が、この秋から埋まり始める。

商流はモダントレードを飛び越え、デジタルコマースへ直行。 TMS普及率は実感値でほぼ0%。守るべきレガシーがないことが、そのまま後発優位の事業機会になる。

本稿は、Nexgen Japan、NTT e-Moi、LOGISTICS TODAY の3社共催により2026年7月29日から8月2日にかけて実施した、日越サプライチェーン接続調査2026の総括である。調査団はホーチミン市および近郊において、JETROホーチミン事務所、カイメップ・チーバイ港の深水コンテナターミナルSSIT、ロンドゥック工業団地を訪問し、日系の荷主、物流、物流不動産、IT企業の経営層にヒアリングを行うとともに、ベトナム唯一の国際物流展VILOG 2026を視察した。

本稿では、現地で得た一次情報を公開統計と突き合わせながら、日本の物流企業と荷主企業に向けた示唆を提示する。

ベトナムサプライチェーンコールドチェーン現地調査物流DXチャイナプラスワン

目次

  1. グローバルサプライチェーン再構築における、ベトナムの役割
  2. マクロ経済:二桁成長という“国家ノルマ”
  3. コールドチェーン:南部に偏る供給、北部に未開拓需要
  4. 先進技術によるサプライチェーン高度化:空白がもたらす後発優位
  5. 結び:接続を設計する側に回る

1. グローバルサプライチェーン再構築における、ベトナムの役割

「チャイナプラスワンの主語が変わった」という現地の証言から始めたい。

チャイナプラスワンとは、中国一極集中のリスクを避けて生産拠点を第三国へ分散させる動きを指すが、20年前から10年前は、日本企業が中国拠点の一部をタイ・ベトナム・インド等の新興国へ移す話だった。

これが現在は、中国企業自身が主語となった。すなわち、ディスプレイパネル、太陽光、EV部品といったハイテク分野で自国から第三国へ出て行く。米国の対中関税を背景に、中国で最終製品の手前まで仕上げ、最終工程だけをベトナムで行うことで高関税を避ける動きも顕著だ。ベトナムはもはや単なる低コスト生産地ではなく、米中対立の緩衝地帯として世界の製造網が組み替えられる際の受け皿となっている。

この再編を物流面で支えるのが、南部の深水港カイメップ・チーバイだ。ベトナムの港湾コンテナ取扱は、ホーチミン市既存港の37%とカイメップ・チーバイの28%を合わせ、南部だけで約65%を占める。伸び率は対照的で、2025年はホーチミン市既存港の前年比6%増に対し、カイメップ・チーバイは19%増。深水港への欧米直航の大型船を受け、市内既存港は国内配送のハブを担う構造的シフトが進んでいる。

図表1. カイメップ・チーバイ港は日本との接続が弱い

図表1. カイメップ・チーバイ港は日本との接続が弱い

カイメップ・チーバイ港のターミナルオペレーターSSIT社は、今年、港湾群で最大となる25万DWT、2万4,000TEU級の船型認可を取得し、中国・米国西岸・東岸・ガルフ、欧州、アフリカへの直航6サービスを擁する[18]。

※ DWT(載貨重量トン数):船舶が積載できる貨物等の最大重量。TEUは20フィートコンテナ換算の個数単位。

ここで強調したいのは、日本との接続の弱さである。SSIT社の直航6ルートのうち日本寄港は北米西岸ルートにおける横浜のみで、連携船社に日本勢はほぼ見当たらない。ベトナムが中国・北米・欧州向けの輸出ハブとして急成長する一方、日本はその成長回廊に構造的に組み込まれていなかった。

米中対立の緩衝拠点化(製造)ゆえの物流面での欧米・中国ハブとしての機能成長を見せているのだが、日本の接続の弱さは日越間貿易におけるあしかせとなるだろう。

輸出生産拠点化に加えて、ベトナムでは更なる2つの役割(消費市場化・デジタル実装推進)が拡張していることも重要な変化として当レポートに付したい。

図表2. 拡張するベトナムの役割

図表2. 拡張するベトナムの役割

特に、現地の日系経営者は、製造業進出の波が一巡し、消費市場を狙う第二の進出フェーズが始まっていると口を揃えていた。これが、日本企業がこれから向き合うべきベトナムである。

2. マクロ経済:二桁成長という“国家ノルマ”

JETROホーチミンからヒアリングとNexgenの公開統計調査によると、2025年の実質GDP成長率は8.02%、2026年上半期は8.18%とさらに加速している[3][4]。

その上で国会は2026年の成長目標を10%以上と決議し[1]、2026年1月の第14回共産党大会は、2026年から2030年の年平均成長率10%以上、2030年に一人当たりGDP約8,500ドル、2045年までに高所得先進国入りという長期目標を採択した[2]。

図表3. ベトナム経済の主要指標と政府目標

項目内容
直近の成長実績2025年実質GDP成長率 8.02%、2026年上半期 8.18% [3][4]
2026年の政府目標GDP成長率 10%以上(2025年11月 国会決議) [1]
中期・長期目標2026〜2030年 年平均10%以上、2030年 一人当たりGDP約8,500ドル、2045年 高所得先進国入り [2]
人口動態人口約1.02億人、中位年齢33.9歳。中間層は2023年比で2026年に倍増の見込み [13]
物流コストGDP比16〜17%と先進国の約2倍。高成長の主要ボトルネック [14]

実績8%の国が目標に二桁を掲げるのは、願望ではなく統治体制としての決意表明だ。

「これを政治スローガンと読み流すことはできない」との証言があった。背景には人口動態への切迫した危機感がある。ベトナムの人口は約1.02億人、中位年齢は33.9歳と若い[13]が、既に65歳以上人口が1割を超え、2030年代末には生産年齢人口が頭打ちになると見込まれる。2040年が来る前に十分に発展しておかなければ手遅れになるという党指導部の焦りである。

トーラム体制は中央省庁を18から14へ、地方自治体を63から34へ再編し、法改正は年間約30本から100本ペースへ増えた。“走りながら法整備する”ほどの制度改正のスピード感と反面にはらむ不確実性は、外国企業にとってリスクでもある。

インフラも同じ切迫感を持ち、同じ速度で開発が推進される。

ロンタイン新国際空港は2026年12月1日に商業運航を開始する予定であり、総投資673億ドルの南北高速鉄道は2026年12月の着工が予定される[17]。高速道路の供用延長は2020年末の1,163kmから2025年末には3,300km超へと、5年で約3倍になった。

ベトナムは、高いマクロ経済成長目標を掲げ、多少強引ともいえる急ピッチのインフラ整備と、消費市場への転換を図っているのだ。この上で、物流業界の事業機会を次章で探索しよう。

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大野 有生
CEO・物流AIアーキテクト

大手IT企業・外資系金融企業にてAI・DX・サプライチェーン改革を主導。生成AIの活用戦略と組織変革を組み合わせた企業向けアドバイザリーを行うと共に、人材トレーニング・グローバル調査・研究活動に従事。