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Recap
05.08.2026

LOGISTICS TODAY緊急イベント「ホルムズ危機、日本企業はどこで詰まるか」に登壇 ― Xデー予測と4部門連携要件

LOGISTICS TODAY緊急イベント「ホルムズ危機、日本企業はどこで詰まるか」に登壇 ― Xデー予測と4部門連携要件
この記事のポイント

2026年5月8日、LOGISTICS TODAY緊急イベント「ホルムズ危機、日本企業はどこで詰まるか」に登壇。危機発生から70日経過時点で、6名の専門家とともに検証を行った

「有事が平時」の現代の国際物流では、影響顕在化シミュレーション、クリティカル品目の多段階可視化、経営・法務・物流・調達の 連携 を今後のアクションとして提示

3月末のNexgen Expert View「Hormuz Expert View」、4月のJILS「経営×変革」、本特番に またがって見えた共通構造を、考察した

ホルムズ海峡サプライチェーン供給網レジリエンスCSCOクリティカル品目

目次

  1. イベント概要
  2. Nexgen Japanの発信内容
  3. 他登壇者の論点
  4. Nexgen Lens ― 三部作で見えた「有事が平時」の組織像

2026年5月8日、LOGISTICS TODAY主催の緊急イベント「ホルムズ危機、日本企業はどこで詰まるか」に、当社CEO・物流AIアーキテクト 大野有生が基調講演で登壇しました。本記事では、当日のセッション内容を振り返るとともに、3月末公開のExpert View「イラン紛争とホルムズ危機の現状と日本企業が取るべき供給網レジリエンス対応」、4月にJILSが公開したホワイトペーパー「経営×変革」を含む 三部作の視座を、Nexgen Lens としてまとめます

1. イベント概要

イベントは、2026年2月28日のホルムズ海峡危機発生から 70日が経過した5月8日 に開催されました。物理的な物流網の混乱が深刻な材料不足へと変質し、実体経済全体に衝撃が及ぶ段階に入った時点での、緊急検証の場となりました。

「ホルムズ危機、日本企業はどこで詰まるか」

▲当社CEO・物流AIアーキテクト 大野有生(出所: LOGISTICS TODAY)

登壇者は次の6名と、モデレーターを務めたLOGISTICS TODAY 編集長の赤澤裕介氏です。

登壇者所属・役職
大野 有生当社CEO・物流AIアーキテクト/東京海上ホールディングス プリンシパル
小野塚 征志 氏ローランド・ベルガー パートナー
木村 悦治 氏双日テックイノベーション 副部長
太田 文行 氏Zenport(ゼンポート) 代表取締役社長
村上 建治郎 氏Spectee(スペクティ) CEO
川嶋 章義 氏Shippio(シッピオ) エバンジェリスト

2. Nexgen Japanの発信内容

セッションでNexgen Japanは、危機発生から70日が経過した現時点で、企業が 「いつ」「何を」「どう」備えるべきか を構造的に提示しました。論点は以下の4つです。

2-1. 衝撃波は数週間後に姿を現す ― 4層の影響伝播構造

危機の影響は瞬時に経営を直撃しません。海上・港湾の混乱から始まり、素材・中間材→部品→完成品・市場へと、数週間〜数ヶ月の遅延を伴って4層を順に降りてくる 構造になっています。

経過時間影響層起きていること
Day 0〜25海上・港湾(物流)通峡制約と船社回避、代替港・ランドブリッジの立上げ
Day 25〜60素材・中間材樹脂・アルミ・ゴム原料の供給遅れ
Day 35〜60部品(製造影響)Tier3加工剤の不足 → Tier2部材の不足 → Tier1部品の生産調整
Day 60〜完成品・市場完成品組立計画の変更、補修部品・販売現場への波及

最初は「物流危機」から始まりますが、1〜1.5ヶ月でクリティカル部材が枯渇し「材料問題」へと変質 します。2ヶ月 でTier1部品の「製造ライン」へ影響が及び、3ヶ月で影響は「生活全体」へ波及 します。今、私たちはちょうどこの境界線にいます。

2-2. 影響顕在化のXデー

「いつ顕在化するか」は出たとこ勝負ではなく、推定が肝要です。影響顕在化日は、4変数で算出できます。

T = 危機発生日 + (LT + H + Q) − IC

  • LT: 輸送リードタイム(Lead Time)
  • H: 港湾混雑・船腹不足の追加遅延(Hold/Handling)
  • Q: 代替サプライヤー認定期間(Qualification)
  • IC: 在庫カバー日数(Inventory Coverage)

これは、輸送ネットワーク層(Transport)/在庫バッファ層(Inventory)/影響伝播層(Propagation) の3層を貫いて算出される、業界共通のフレームです。

自動車業界の典型値で当てはめると――

T = 2月28日 + (LT 55 + H 25 + Q 70) − IC 50 = 2月28日 + 100日 = 6月8日

つまり、今から1ヶ月後の6月8日前後に、自動車業界の在庫が底を突き始める という具体予測です。これは「漠然とした不安」ではなく、4変数で説明できるカウントダウンです。

影響顕在化のT式

図表1. 影響顕在化の推定日(T)

2-3. 在庫のパラドックス ― 全社在庫は「真の脆弱性」を隠す

しかし、Xデーを左右する IC(在庫カバー日数)の見方 こそが、最も誤解されているポイントです。

業界別の全社平均在庫日数は、食品10〜40日、自動車20〜60日、住宅60〜120日、アパレル80〜120日、化学100日と、一見して「数十日〜100日のバッファがある」ように見えます。しかし――

全社在庫が100日分あっても、代替不能な特定の樹脂が10日分しかなければ、その時点で操業は停止します。

これが「在庫のパラドックス」です。真の破断点は、多品種で認定制約が強い「代替不能なクリティカル材料」のロット別在庫の薄さ にある。総額ではなく、クリティカル品目が何日分あるか が鍵となります。

クリティカル品目には3つの層があります。

誰が決めるか品目例位置づけ
① 社会・政策上の重要物資政府・業界団体原油、LNG、肥料、半導体、医薬品、重要鉱物国家・産業レベル
② 業界共通の重要品目業界構造から見える自動車の半導体・樹脂・アルミ、食品の包材・添加物、化学のナフサ業界として詰まりやすい
③ 企業固有のクリティカル品目各企業が自社で設定特定の樹脂、特定サプライヤーの添加剤、専用金型部品実際の操業停止に直結

国家備蓄の放出は①の層で機能します。しかし、操業を実際に止めるのは③の層 です。BOM、在庫カバー日数、代替サプライヤー認定状況、輸送回廊依存度を組み合わせて、自社固有のクリティカル品目をロット別に可視化する「多段階在庫の可視化」 こそが、危機対応の出発点となります。

在庫のパラドックス

図表2. 全社在庫は「真の脆弱性」を隠す

2-4. 不確実性コーンと4部門連携 ― 物流部門だけでは止血できない

ここまでの構造を踏まえると、危機対応は物流部門だけの課題ではなくなる ことが分かります。

スエズ・紅海・ホルムズと、チョークポイント危機は「場所を変えて」必ず繰り返されます。「一つの未来に賭ける」のではなく「広い未来の可能性空間を見据える」 ――不確実性コーン(Schoemaker, Day & Snyder, 2013)の発想を経営に組み込むべき時代です。

ホルムズ危機の今後についても、3つのシナリオを提示しました。

シナリオ内容
上振れ:早期部分再開IMOの海上回廊が機能。ただし、保険料・燃料費・傭船料はすぐに平時へは戻らず、追加料金がしばらく残る
ベース:高コストの常態化通航が部分的にしか戻らず高コストが続く。Oxford Economicsは少なくとも2026年を通じて不確実性が続くとし、日銀はCPI2%後半・成長率は下振れと展望
下振れ:長期閉塞・供給制約の顕在化通航が長期にわたり実務上成立せず、備蓄放出の時間を超える。「何を止め、何を動かすか」を事前に決めていない企業ほど "高値買い" と減産が同時に起きる

そして、いずれのシナリオでも経営・法務・物流・調達の4部門連携が必須 だと示しました。

部門平時から準備すべきこと
経営(Management)重要品目の在庫カバー日数のしきい値設定/限界値を超えた際の費用許容枠と意思決定者の事前定義
法務(Legal)不可抗力条項の適用可否の精査/戦争リスク保険の付保条件(追加保険料、免責事項等)の確認
物流(Logistics)入荷ETA変動と未確定ブッキングの可視化/サーチャージ転嫁ルールの標準化
調達(Procurement)代替供給元におけるスポット枠確保/前倒し支払い発生時のキャッシュアウト枠の確保

ジャスト・イン・タイム(JIT)の効率性は平時の最適解でしたが、「有事が平時」 となった現在、必要なのは冗長性と備えを重視する ジャスト・イン・ケース(JIC) へのシフトです。そしてJICは、物流部門だけでは実装できません。

3. 他登壇者の論点

他5名の登壇者からも、現場の数字と実務知見に裏打ちされた重要な論点が提示されました。LOGISTICS TODAY記事「ホルムズ危機で供給網に限界、製造業リスクが現実に」をベースに、要点を整理します。

小野塚 征志 氏(ローランド・ベルガー パートナー)― リスクの5分類と経営課題化

原油輸入の95%、ナフサの4割がホルムズ海峡を経由しており、石油化学産業への打撃が最も大きい現状を指摘。海上輸送は喜望峰ルートへ迂回しており、リードタイムが10〜14日程度延長している実態を提示しました。

そのうえで、企業が対応すべきリスクを 経済・環境・地政学・社会・技術の5つ に分類。これらを特定部門に任せるのではなく、経営課題として 「リスクアセスメント(見える化)」「対応」「モニタリング」のサイクル を回すべきだと主張しました。

木村 悦治 氏(双日テックイノベーション 副部長)― 貿易実務を「戦略的拠点」へ

貿易実務者の7割が40歳以上で、属人的な経験と勘に支えられている現状を提示。業務が標準化されずブラックボックス化しているため、担当者不在時に港での超過保管料発生などのリスクが露呈すると指摘しました。

特定タスクからデジタル化を進める 「スモールスタート」によるデータの資産化 を推奨し、貿易実務を「手配屋」からSCM全体の判断を左右する 「戦略的拠点」 へ転換すべきだと主張しました。

太田 文行 氏(Zenport 代表取締役社長)/ 村上 建治郎 氏(Spectee CEO)― 可視化の実装論

太田氏は、サプライチェーンを直線的な構造から多極化・網の目状の 「メッシュ型」構造 へと転換する必要性を指摘。

村上氏は、生成AIを用いてSNSやセンサーデータからリスク情報をリアルタイムに解析し、サプライヤーの深層まで見える化 する重要性を強調しました。

川嶋 章義 氏(Shippio エバンジェリスト)― 三重制約とCSCOの不可欠性

政治的な停戦と海運の正常化は同時には起きないと断言。物理的な封鎖解除以上に 「制裁リスク」「金融の遮断」「保険の厳格化」という三重の制約 が海運の足かせとなっており、船主・運航会社・船長の3者が「100%安全」と判断するまで、商業航行は再開されないと指摘しました。

そのうえで、安定供給を支えるには CSCO(最高サプライチェーン責任者) の存在が不可欠だと主張。プラットフォームを通じて遅延や欠品リスクを早期に把握し、一次情報をリアルタイムに経営層へ集約・共有する体制 を作らなければならないと訴えました。

4. Nexgen Lens ― 三部作で見えた「有事が平時」の組織像

ここからは、本イベントを単独の出来事としてではなく、当社が3月末から発信してきた一連の論考の中に位置づけて 読み解きます。

時系列を整理すると次のとおりです。

時期当社の発信位置づけ
2026年3月31日Expert View「イラン紛争とホルムズ危機の現状と日本企業が取るべき供給網レジリエンス対応危機発生1ヶ月時点で、4経路同時波及・3シナリオ・横串組織の必要性を提示
2026年4月23日Recap「JILS『経営×変革』ホワイトペーパー第1章を執筆「有事が平時」の世界観と、CLOが担う3つの責務を提示
2026年5月8日本特番(Recap)危機70日経過時点で、専門家6名の知見と当社の主張が交差

4-1. 三月末予測の検証

3月末のExpert Viewは、70日経過時点で次のとおり検証されました。

符合する内容

  • 「物理途絶」と「経済途絶」の同時発生 ― 川嶋氏の三重制約(制裁・金融・保険)の指摘は、まさに「物理的に開いていても、経済条件が揃わなければ船は動かない」という3月末時点の論点が現実化したものです。
  • 「次の危機にも転用できる組織設計」の重要性 ― 太田氏のメッシュ型構造、村上氏の生成AI可視化、木村氏の戦略的拠点化は、いずれも「ホルムズ対策」ではなく 「どの危機にも使える組織能力」 として論じられました。

情勢の進展で更新された点

  • 3月末時点では抽象的に語った「在庫が枯渇するタイミング」を、T式によって6月8日という具体日付 として算出できる段階に入りました。これにより、「漠然とした不安」を 「カウントダウン式の経営課題」 へ転換できます。

4-2. 「有事が平時」が現場で実証された

JILS第1章で当社が掲げた 「有事が平時」 という世界観は、本特番で現場の実装論として確認されました。

象徴的だったのは、6名の登壇者全員が「次の危機」を前提に話していた ことです。誰一人として「ホルムズが収束すれば元に戻る」とは語っていません。スエズ・紅海・ホルムズ・トランプ関税・異常気象・港湾ストライキ・橋梁崩落。JILS第1章で列挙したこれらの事象が、もはや 「想定外の緊急事態」ではなく日常 である、という認識を全員が共有していました。

つまり、「有事が平時」の世界観は、もはや当社単独の主張ではなく、サプライチェーン専門家コミュニティの共通認識 になりつつあります。

4-3. CLOからCSCOへ ― 横串組織は運用フェーズに

Nexgen Japanは、CLOに次の3つの責務を提示しました。

  1. グローバルサプライチェーン全体の「管制塔」となる
  2. 世界動向を注視し、レジリエントな調達先変更を進言する
  3. リードタイム変動に応じて在庫基準を都度見直す体制を組む

本特番で 川嶋氏が提示した「CSCO」 は、これと完全に重なります。プラットフォームから一次情報を吸い上げ、経営判断を後押しする戦略的情報をCEOに集約する――これは、Nexgen Japanが論じた 「CEO直下のレポートラインで、各部門に横串を刺す権限」 の運用形態にほかなりません。

そして、経営・法務・物流・調達の4部門連携要件は、CSCO/CLOが担う「横串の運用設計図」そのもの です。

観点JILS「経営×変革」本特番(5月)
役職論CLOの3つの責務川嶋氏:CSCOの不可欠性
組織設計CEO直下の横串組織大野:経営・法務・物流・調達の4部門連携
情報設計一次情報のリアルタイム集約川嶋氏:プラットフォーム経由の戦略的情報提供

3月末の 「組織設計の必要性」 が、4月の 「役職論(CLO)」 を経て、5月には 「具体的な4部門連携要件と運用形態(CSCO)」 へと、3ヶ月かけて議論の解像度が一段ずつ上がってきました。 三部作を貫いて見えるのは、この進化です。


Nexgen Japanとして

「有事が平時」の世界では、危機対応は事故ではなく業務です。

業務である以上、それは設計し、運用し、改善できるものです。当社は、

  • 多段階在庫の可視化(クリティカル品目のロット別把握)
  • 影響顕在化Xデーの算出(T式に基づくカウントダウン経営)
  • CSCO/CLO機能の立ち上げと4部門連携の設計

これらを起点としたサプライチェーン変革の伴走支援を提供しています。「ホルムズ対策」ではなく、次の危機を待たずに、 平時のうちに着手する場合、「何からはじめるか」。お気軽にご相談ください。

関連リンク

当日記事

LOGISTICS TODAY 当日の記事「ホルムズ危機で供給網に限界、製造業リスクが現実に」(2026年5月8日掲載) https://www.logi-today.com/948383

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