講演のポイントAIエージェントにできるのは数学的に正しい複数の選択肢を出すところまでで、ヒトが企業の方針や文脈に沿って意思決定をする必要がある点を強調しました。
AI技術の進化がデータのゆらぎや欠損を埋めることが可能になっています。つまり、FAXをなくすのを待たず、受け取ったFAXを生成AIで読み取った方がデジタル化が早く進みます。
目次
1. イベント概要
2026年10月2日、東京ビッグサイトで開催された産業DX総合展 2026 夏 東京の物流DX EXPOで、特別企画「物流DX未来会議2026 AFTER ACTION IN TOKYO」に、当社代表取締役・物流AIアーキテクト 大野有生が登壇しました。9月17日にお知らせした講演です。
当社の講演タイトルは「エージェントは対立に値段をつける。物流AI実装の現在地。」です。LOGISTICS TODAY代表取締役・編集長の赤澤裕介氏がモデレーターを務めました。セッションの様子はLOGISTICS TODAYが記事で報じています。
写真 物流DX未来会議2026で講演する大野有生(写真:LOGISTICS TODAY)
ここでは、講演で強調した点と当社の考え方を改めてご紹介します。
2. 営業と輸送の目的を最適化するAIエージェントデモ
当社の物流AIエージェント synPATH を使って、営業のエージェントと物流のエージェントが互いに条件を出しあい、配送計画を調整するデモを行いました。
二つのエージェントがそれぞれの部署のデータを読み込み、数往復のやり取りで、制約を満たす24通りの組み合わせを見つけます。その後、エージェントはソルバー(最適化ツール)を用いて、欠品率と物流コストのバランスが良い3つのオプションを提示しました。
ある案では、営業KPIを最も満たす案はコストが高めであり、一方で別の案では、物流KPIを満たす案は欠品率が高めです。
AIは、数学的にバランスの良いこれらの複数の選択肢を出すことはできても、取引先がそれを飲めるかどうかは判断できません。 従い、synPATHにはヒトが自ら意思決定を入力する機能があるのです。「今は新規採用直後で信用を積む時期か」「利益率を守る局面か」というデータベースにない文脈をもとに、ヒトが計画を選択することになります。
図1 営業部と物流部のエージェントが納品条件を調整する画面(当社 synPATH)
3. Nexgen View
3-1. FAXは残したまま、AIで読む
LOGISTICS TODAYの赤澤裕介代表取締役・編集長は、長年の物流業界における課題を提起しました。
LOGISTICS TODAY 代表取締役・編集長 赤澤裕介氏
物流の共同化が進む一方で用語やデータ形式の標準化が長年進んでいない。荷主と運送会社の取引でいまもFAXが広く使われている。9割以上の会社が使っているというデータもある。これがデジタル化やAI活用を阻害する要因の一つだ
これに対する当社は、以下の通り回答をしました。
Nexgen Japan 代表取締役 大野有生
FAXを無くさなくてよい
受信したFAXを生成AIで読み取り、データにして出荷指示に変えれば良いのです。
AI技術の進化がデータのゆらぎや欠損を埋めることが可能になっています。つまり、FAXをなくすのを待たず、受け取ったFAXを生成AIで読み取った方がデジタル化が早く進みます。
物流の現場は、得意先ごとの書式、手書きの追記、担当者の経験則といった例外の集まりです。例外を例外と見分けて扱えることが、生成AIの強みです。
好事例
丸紅ロジスティクスは、新潟県内に拠点を持つ米菓メーカーの受注・物流業務を受託しており、受注の約3割がFAXです。取引先ごとに書式が異なり手書きも混じるため、従来のOCRでは精度が上がりませんでした。
丸紅のデジタル・イノベーション部と共同で、FAXの発注書をOCRで読み、生成AIで所定形式のデータに変え、人は確認と修正だけを行う仕組みに切り替えたところ、1日延べ17時間かかっていた受注処理が9時間に縮みました。導入当初から精度は100%ではなく、人の確認を前提に運用しながら精度を上げています。
3-2. 物流は他社を動かす仕事
当社は、物流でAIの導入が進みにくい理由を、技術ではなく仕事の構造にあると見ています。総務、人事、経理の仕事は自社の境界の内側で完結し、社内規則と指揮命令で動かせます。SCMと物流は境界の外側に広がり、メーカー、運送会社、倉庫、卸、小売が、契約と交渉と信頼関係でつながっています。物流のAIは、自社が指示できない車両や入荷枠を前提に、計画を組まなければなりません(LOGISTICS TODAYへの寄稿)。
図2 総務・人事・経理は境界の内側、SCM・物流は境界の外側で動く(当社講演資料より)
4. おわりに
物流は他社と関わり、人が業務と情報の溝を埋めてきた領域です。ベテランの頭の中を書き出してエージェントを動かし、切り出した業務はAIに、意思決定は人に任せる。当社はこの順番で、物流の現場にAIを入れていきます。
このようなプロセスで実装したAIエージェントは、ヒトが電話とメールで数日かけていた調整を数分で終えることができます。更にバランスの良い案を自動で提案するため、「営業と物流のどちらが正しいか」から、「今の事業の文脈では、どの値段なら払えるか」に変えることができるのです。
最後に、本会議を企画・運営されたX Mile(クロスマイル)株式会社、企画協力とモデレーターを務められたLOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長、ならびに最終日の最終枠にお越しいただいた皆さまに、御礼申し上げます。
5. 参考文献・主要情報源
- LOGISTICS TODAY「「物流DX EXPO」開幕、物流改革の実装探る」(2026年9月30日)
- LOGISTICS TODAY「物流DX未来会議、改革の順番と伴走力を議論」(2026年9月30日)
- LOGISTICS TODAY「物流現場のDX化、AIを活用すればFAX排除は不要」(2026年10月2日)
- 大野有生「【寄稿】人材が不足する理由 サプライチェーンのAI求人は3年で387%増えた」LOGISTICS TODAY(2026年9月28日)
- 丸紅デジタルイノベーション「生成AI×OCRで複雑な受注業務を半自動化 従来不可能であった物流DXを最新技術で実現」(2026年1月9日)
開催レポート|LOGISTICS TODAY
物流現場のDX化、AIを活用すればFAX排除は不要
実務者からよく受ける質問
物流でAIを使うには、先にFAXをなくしてデータ形式を標準化する必要がありますか
必要ありません。受信したFAXを生成AIで読み取り、データにして出荷指示に変える仕組みを先に作るほうが早く効果が出ます。丸紅ロジスティクスは米菓メーカーの受注業務で、FAXの発注書を生成AIで所定形式のデータに変え、人は確認と修正だけを行う方式に切り替え、1日延べ17時間の受注処理を9時間に縮めました。精度100%を待たず、人の確認を残した業務フローで始めるのが実務的です。
AIエージェント同士に交渉させれば、営業と物流の調整は自動化できますか
自動化できるのは、制約を満たす選択肢を絞り込んで並べるところまでです。デモでは、営業と物流のエージェントが数往復のやり取りで制約を満たす24通りの組み合わせを見つけ、ソルバー(最適化ツール)で欠品率と物流コストのバランスが良い3つの案を示しました。どれを選ぶかは、新規採用の直後で信用を積む局面か、利益率を守る局面かといったデータにない文脈で決まるため、ヒトが判断します。
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